嫌われ者に恋をしました
「隼人さん、今日は本当にありがとう」
「そんな、何度もいいのに」
「私一人じゃ、何もできなかったから」
「そう?お役に立てて良かった」
「……ちなみに、隼人さんはああいうお店にもよく行くんですか?」
「え?……いや、ああいう感じの所には行かないけど」
雪菜は疑うように首を傾げて微笑んだ。なぜ疑う?
本当にあの手の店に行ったことはなかった。雪菜の母親が勤めていたという店はいかにもな場末のスナックだった。酒枯れしたママの声のかすれ具合といい、まさしく場末のスナック。
それにしても、雪菜の父親のことはわからなかったが、期せずして母親の遺品に出会えたのは本当に幸運だった。
雪菜が膝に抱えた缶を見ると、キラキラしたシールがたくさん貼ってある。母親の趣味か?
「雪菜の名前はお母さんの源氏名からつけたんだね」
「源氏名?」
「うん……、店で女の子が使う名前を源氏名っていうんだよ」
「そうなんですね?若菜っていうのはお母さんがずっと気に入って使っていた名前なんです。本名は恵子なんですけどね。ちなみに、私の名前はお父さんが付けてくれたそうですよ。雪の日に生まれた若菜の子だからって」
「そっか……」
源氏名も知らない雪菜。雪菜と雪菜の母親は全く違う世界に生きていたんだろう。それにしても、名前の由来が源氏名だったとは。
雪菜の母親は雪菜と顔はそっくりだが、服のセンスも化粧の雰囲気も何もかもが違った。あの母親の元、どうして今の雪菜のような人間が育ったのかよくわからない。
「雪菜はよく不良にならなかったね。環境的にはグレてもおかしくなさそうだけど」
「ええっ?不良ですか?……そうですね、どうしてでしょう」
雪菜は窓の外をじっと見て考えていた。