嫌われ者に恋をしました

 雪菜の母親はいったいどんな人間だったんだろう。缶にこんなシールを貼るなんて、かなりバカっぽい。

 ママの話では、派手で短気でガサツ。雪菜と似ている点が全く見当たらない。

 似ているのは顔だけ。若い頃は相当モテて、男たちからちやほやされただろう。でも、モテたとしても若くして雪菜を生んでいるから、確かに雪菜の存在は邪魔だったのかもしれない。

 その割に、あんな写真を職場に隠し持っていたりして、その辺りもよくわからない。

 あんな風に靴下やら写真を大事にとっておくくらいなら、叩いたりせずもっと雪菜をちゃんと愛してあげれば良かったものを。

 もしかしたら、雪菜の母親は雪菜の愛し方がわからなかったのかもしれない。その感情をどう表現したらいいのか、わからなかったのかもしれない。

 雪菜はよくこんな純粋に育ったものだ。もちろん、本人の努力もあっただろう。

 雪菜は努力家だし、結構精神力も強い。そういう所は父親似なのか?

 雪菜は静かにひっそり生きることで自分を守っていたようだが、そんな中でもできる限りの努力をしている。参考書を本屋で読んで勉強していたなんて。当然、塾なんて通わせてもらえなかったんだろう。

 叩かれて怒鳴られてロクな扱いを受けていなかっただろうに、そんな仕打ちを受けてもなお、雪菜は母親に対して愛着を持っている。一時的にうちに来てもらった時でさえ、雪菜は母親の位牌を持ってきた。

「義理、のようなものです」

 あの時雪菜はそう言った。雪菜は義理と表現したが、それは雪菜の優しさだと思った。雪菜は心のどこかで母親を許していたんだと思う。

 今回墓参りをして、母親の遺品に出会って、雪菜は少し前に進んだだろうか。母親が死んだことを自分のせいだなんて、もう思っていないだろうか。
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