嫌われ者に恋をしました

 宿に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。

 旅行も旅館も初めての雪菜は少し戸惑っていたが、部屋に案内されるといろんな扉を開けたり、外を眺めたりして楽しそうにしていた。

 調子に乗って、貸切風呂に一緒に入ろうと誘ったらすごく嫌がられたが「露天だよ?星空が綺麗だよ?入ろうよー」と抱きついてごろごろ甘えたら、雪菜は渋々承知してくれた。

 雪菜は今まで絶対に風呂には一緒に入ってくれなかった。それなのに、シチュエーションの違いとかちょっと甘えたくらいでうなずいてしまうなんて、男に甘いダメな子だ。絶対に他の男には渡さない。

「まあ、一緒に風呂に入ったからって別に何かしようってわけじゃないからさ」

「はあ……」

 そうは言ったが、一度入ってしまえばこちらのもの。今日は何もしないが、今まで一緒に入ってくれなかった風呂に今後入りやすくなる。その伏線なのだよ、これは。

 雪菜は最初恥ずかしがってジタジタと抵抗していたが、湯に入った途端、急におとなしくなった。

 冷たい空気に熱い湯が心地いい。一緒に風呂から見上げた星空は澄んでいて、本当に綺麗だった。

「綺麗ですね」

「だろー?」

 隼人が自慢げに言うと、雪菜はクスクスと笑った。

「今日は疲れたんじゃない?」

「少しだけ。でも今日は本当に良かったです。今まで怖くて直視できなかったけど、お母さんのことを知って、私自身のことを知って、本当に良かったと思います」

 雪菜は吹っ切れたような、芯の強い顔をして夜空を見ていた。
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