嫌われ者に恋をしました
二人で淡々と備品を照らし合わせていく。隼人は言うタイミングを見計らいつつ、その一言が言えないでいた。「悪かった」の一言くらい簡単なことだろう。そう思っても、言おうとすればするほど、ますます言えなくなった。
しばらくして、資料が1つ足りないことに気がついた。雪菜が「取りに行きます」と言ったから、「俺が行く」と言って隼人は足早に応接室に戻った。
でも本当は、資料を取りに行くというのは言い訳で、いったん雪菜のそばを離れて仕切り直したかった。そうしたら、言える勇気が出るような気がした。
資料を手に、廊下を歩きながら隼人は深呼吸をした。謝るくらいたいしたことじゃない。そう思った時、廊下の向こうから雪菜の声が聞こえた。
「キャッ!」
雪菜のそんな声を聞いたことがなかったから隼人は驚いて走り寄った。
「大丈夫か!」
雪菜のそばには、いつの間にか営業所の所長が来ていた。
「ちょっとぶつかっただけじゃない。大袈裟なんだよね、若い子は」
所長は首を回しながら、べったりとした言い方をして、隼人はイラッとした。ぶつかった?こんな広い部屋で、なんでぶつかるんだよ。