嫌われ者に恋をしました

「……もっと抱き締めていたいけど、もう下に着きそうだよ」

 そう言われて、ゴンドラがだいぶ下まで降りてきていることに気がついた。そうだ、ここって観覧車の中だったんだ。完全に忘れていた。

「もう、こんなところまで降りてるっ!」

「もう一回乗る?」

「……いえ、大丈夫です」

 膝から降ろしてもらい横に座った時には、もう地上のすぐそばだった。夜景なんて全然見られなかった。でも、そんなことはもうどうでもいい。

 観覧車を降りて寒い外に一歩出た途端、魔法がとけて現実世界に戻ってしまったような錯覚に陥った。でも、王子様はちゃんと手を繋いでくれているから大丈夫。

 夜景の見える観覧車で膝まずいてプロポーズするなんて、もしかして王子様を演出していたのかな……?

 でも、それは聞かないでおこう。身分違いの王子様はこうして私を迎えに来てくれた。それだけでもう十分。

 そういえば、私たち二人ともいなくなったら、監査課ってどうなるんだろう……。

「来年、監査課はどうなるんですか?」

「今は財務部経理課の一部っていう位置付けだけど、来期からは監査部として独立させることになりそうだよ」

「そんなに大きく変わるのに、隼人さんは残らなくても大丈夫なんですか?」

「もう道筋はつけたから俺は不用だよ。それに片倉さんが監査課長として異動になると思うから、大丈夫」

 片倉課長……、綾香さんと一緒になって「マイナス2かけるマイナス2はプラス4だからね!熱い熱い!」なんてからかわれてしまった。でも、片倉課長は仕事のできる人だから、きっと大丈夫。
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