嫌われ者に恋をしました

「……何があった?」

 隼人に問いかけられたが、雪菜は本当のことを言っても無駄だと思い、何も答えなかった。いつだって、男の人は男の人の肩を持つ。

 でも、本当は仲末営業所の所長の行為は、痴漢と言ってもいい行為だった。

 所長は近づいて来たと思ったら「すました顔して、お高くとまってるのか」と言って、いきなり雪菜の胸を人差し指で押してきたのだ。

 雪菜はゾッとした。前回触られた時も嫌だったが、今回はもっと嫌だった。嫌というより、怖くて屈辱的で気持ち悪くて、涙がにじんだ。

「だから、ぶつかったんだよ」

 所長が言ってくるのを無視して、隼人は冷たい表情のまま雪菜をじっと見下ろした。

「嫌じゃなかったのか?」

 嫌じゃないわけがない。そんな聞き方、しないでほしい。隼人に問いただされて、雪菜はうつむきながら首を振った。

「嫌だったんだろ?」

 雪菜は小さくうなずいた。

「触られたのか?」

 隼人が聞くと、雪菜は今度は隼人を見上げてからうなずいた。どうして隼人がこんなにしつこく聞いてくるのか、雪菜にはわからなった。

 うなずいた雪菜を見て隼人は怒りで頭が痺れるのを感じつつ、所長を睨み付けた。

「どういうことだよ?」

 仮にも相手は所長なのに、完全に敬語が抜けていることは気がついていたが、隼人はもうそんなことはどうでもよくなっていた。
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