嫌われ者に恋をしました
いつも冷静な隼人が、所長に噛みつくように食ってかかったから、雪菜は驚いた。まさか隼人がそんな反応をするとは思っていなかった。
「ちょっとかすっただけだよ、ねえ?」
「こんな広い部屋でかするなんて、おかしいだろ?」
「ずいぶんムキになるじゃない。さてはこの子あんたのコレか?」
所長は下品に小指を立てた。
「そうじゃない。部下を守るのは当然だろ」
「おいおい、ええ?若いの。血気盛んだねえ。正義の味方気取り?少し触るくらい、別にいいじゃないの」
所長は、薄笑いを浮かべながらあっけらかんと認めたから、隼人は少し身を引いて姿勢を正した。
「所長、今うちの会社がセクハラ対策に力入れてるの、ご存知ではありませんか?所長、ご家族は?住宅ローンとか残ってます?懲戒免職になると、退職金なんて出ませんよ?」
所長の表情が明らかに変わっていくのがわかった。でも、隼人も自分を止められない。
「本部から来たからって、若造がずいぶん偉そうな口、きくじゃない」
「年長だろうと偉かろうと、やってはいけないこともあるんですよ?」
その時、袖口を雪菜が引っ張った。
「私は大丈夫ですから」
「何言ってんの?そんなこと言って……」
「本当に!大丈夫ですから」
雪菜は涙目でじっと隼人を見上げていた。そう言われても振り上げたこぶしを黙って下げるのは難しい。