嫌われ者に恋をしました

 今日は雪菜が監査課に来て初めて、二人きりで行く監査の日だった。

 柴崎課長がいない車内はとても静かで、二人は話すこともなく、ひたすら沈黙が続いたが、雪菜は静かな車内がむしろ快適で、ずっと外の景色を眺めて車窓を楽しんでいた。

 営業所に到着し、車から降りる時になって、ようやく隼人が口を開いた。

「小泉は伝票関係を集中して見て。俺は総務の方も併せて見るから」

「はい」

「あと、俺から見えない所には移動するな」

「え……?あの、倉庫とか、でしょうか?」

「その時は一緒に行くから、必ず言えよ」

「……わかりました」

 また触られたりしないか、心配してくれているんだろうか。そんな、私だって年中触られているわけじゃない。でも、少し強い言い方の中に、雪菜は隼人の優しさを感じていた。

 賀谷営業所は小さな営業所で所長を含めても5人しかいなかった。全体的に雰囲気が良く、アットホームな感じ。

 会議室はなく応接セットに通されて、そこで資料を確認することになった。

 伝票を見た時、雪菜はすぐにここはちゃんとやってそうだな、と思った。そういうのは保管や整理の仕方で、なんとなくわかったりする。もちろん、実際に見てみないとわからない部分もあるけれど。

 経理担当の人は年配の女性で、資料の場所を聞くと、にこにこしながら持って来てくれた。おまけにお茶を出してくれた。
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