嫌われ者に恋をしました
「こんなことしていたら、逆恨みされたりしないですか?」
「まあ、されるかもね」
「もし万が一、課長が刺されたりしたら……」
言葉に出したら、急に現実味を帯びてもっと怖くなった。もし刺されたりして、課長が死んでしまったらどうしよう。そう思ったら突然、悲しい気持ちがこみ上げてきて、涙がこぼれてきた。そんな自分に驚いて、雪菜は急いで窓の方に顔を向けた。
「もしかして、俺が刺されて死んだら悲しんでくれるの?」
隼人は冗談ぽく少し笑いながら聞いてきた。
「それは、もちろん。課長が死んだら悲しいですよ」
雪菜は、泣いているのがわからないように、努めて普通に答えた。
「……俺のために泣いてくれてるの?」
雪菜はハッとして隼人を見た。運転しているから気がついていないと思っていたのに。隼人は視線だけ前を見たまま、片手でポケットからハンカチを出して差し出した。
「意外と泣き虫なんだね」
「……すみません」
ハンカチを受け取って涙を拭いた。さすがに鼻をかむのは悪いと思って、バッグからティッシュを取り出して鼻をかんだ。
また泣いてしまった。
この間から、どうしてこんな簡単に感情が出てきてしまうんだろう。感情が出てしまうから死んだらどうしようなんて考えてしまうのに。私、泣いてばかりで、これじゃ子どもみたい。
「刺されることなんてないから。大丈夫だよ」
そう言った隼人の横顔は、すごく優しく見えた。