嫌われ者に恋をしました
俺のために涙を流すなんて……。返しが付いて抜けない針が胸の奥深くまで刺さったような痛みを感じた。こんな疼くような胸の痛みは、しばらく忘れていた。
彼女は泣いていることを悟られないように、顔をそむけて声が変わらないよう努めていた。
あの非常階段で見た時と同じように。でも、そんな我慢させるようなことはしたくなくて、すぐに声をかけてしまった。
俺のことが嫌い、というわけではないんだろうか。嫌われて避けられていると思ったのに。彼女の気持ちがよくわからない。それとも誰にでもこうなんだろうか。それはそれで心穏やかではいられない。
今のところ出てくる感情も、「楽しい」とか「嬉しい」ではなく「泣く」だけだから、それはそれでどうなんだろう。結局、彼女を泣かせているだけなんじゃないのか。そう思うと自分の不甲斐なさに苛立ちをおぼえる。