嫌われ者に恋をしました

 隼人はそろそろ一歩を踏み出したかった。

 食事に行った時に隼人が笑いかけると、雪菜はぎこちないものの、時々微笑み返してくれるようになった。それだけでも、隼人にはとてつもない進展に思えた。

 確実に距離が縮まっていると感じていた。

 実家はないと言っていたから、夏期休暇はずっと家にいるんだろうか。誘ったら外で会ってくれるだろうか。

 会社では見ることができない彼女を見てみたい。もっと知りたい。近づきたい。

 雪菜への想いはつのる一方で、隼人は自分自身をもて余しつつあった。

 その日の監査も問題なく終わり、戻ってきたところで雪菜に声をかけた。

「じゃあ、行こうか?」

「……いえ、ごめんなさい。今日は帰ります」

 隼人は一瞬何を言われたのかわからなくて、茫然としてしまった。

 断られた?毎回当たり前のように来てくれていたのに。

「どうかした?」

「……今日は用事があるので」

「そう。それなら仕方ないね」

 そんなの嘘だと思った。彼女なら、何か用があれば事前に断ってくるだろう。そう思ったらますます手に入れたくなった。
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