嫌われ者に恋をしました
(8)止められない理由
夏期休暇を目前にした監査は大きな営業所の予定で、総務課が同行した。
総務課からは柴崎と永井が来た。美乃里が来られなくて、雪菜は少し寂しそうだった。
会議室に通され、書類の山に手を伸ばす。隼人も雪菜もぎこちない状態はまだ続いていて、あえて二人とも仕事に集中していた。
「なんかさ、二人とも汗かかなそうだよね?」
柴崎がつまらないことを言ってきた。そんなわけがないだろう。それは俺達が既に人ではないということか?
「そんなわけないですよ。いいから、さっさと書類見てください」
「うーん、その前にちょっと一服」
そう言って伸びをすると、柴崎は煙草を取り出した。この会議室は近頃にしては珍しく禁煙ではないようで、大きなガラスの灰皿が置いてあった。
柴崎は煙草に火をつけると煙を吐いた。その時、隼人は一瞬違和感を感じて、ふと雪菜に目をやると、雪菜の頬は血の気が失せて、著しく顔色が悪いように見えた。
「小泉?……大丈夫か?」
一瞬固まっていた雪菜がハッとして隼人を見た。
「あ……、すみません。大丈夫です。ちょっと席をはずします」
そう言うと雪菜はスッと立ち上がって会議室を出ていった。