嫌われ者に恋をしました
煙草が嫌いなんだろうか。煙草を吸わない人は、だいたいみんな煙草の煙は嫌いだ。でも、あんなに顔色が悪くなるほど嫌いっていうのはどうなんだろう。呼吸器系が弱い、とか?
いずれにしても彼女の前で煙草は吸わない方が良さそうだ。吸う前に気がついて良かった。
その後何度か柴崎は煙草を吸ったが、雪菜は最初の時ほど反応はせず、無表情で静かに伝票をめくっていた。
この営業所は特別大きな問題点もなく、いつも通り講評を柴崎に押しつけられ、監査は無事終了した。
雪菜の前で煙草は吸わないようにしようと、隼人は喫煙室で煙草を吸ってから、車に向かった。
車に目をやると、雪菜と永井が話しているのが見えた。ずいぶん二人の距離が近い。そう思って苛々していたら、雪菜がサッと後ろに引いたのが見えた。
永井は雪菜の顔を覗き込むように話しかけている。
「どうしてもダメなの?」
「……すみません」
心なしか雪菜は固まっているように見えた。
二人で何の話をしてる?さっき後ろに引いたけど、まさか永井に触られたのか?いけないと思いつつ、頭に血が上るのを感じた。
まただ。この頭が痺れる感覚。もうわかっている。こうなると自分を止められなくなる。