嫌われ者に恋をしました
「帰るぞ」
少し離れた位置から大きな声で二人に声をかけた。すると、永井が話しかけてきた。
「松田課長。小泉さん、今日は直帰でもいいですよね?」
こいつ、やっぱり彼女を誘っていたのか。そんなの許すわけがない。
「ダメだ。まだ仕事残ってるから、戻るぞ」
明らかにいつも以上に冷たい声になってしまった。でも、雪菜の瞳が少し嬉しそうに見えたような気がして、気のせいじゃないことを願った。
その後戻ってきた柴崎に永井が雪菜を誘いたいと話すと、柴崎が擦り寄ってきた。
「まっつん!堅いこと言わないで、小泉さん置いて行ってよ」
誰だよ、まっつんって。陰で冷酷眼鏡って言ってるくせに。
「休みに入る前に片づけておきたいことがあるんですよ。すみません」
「ふーん。だってさ、仕方ないよね」
柴崎はそう永井に言うと、永井も肩をすくめた。
「また駅まで送りましょうか?」
「さすが!わかってるね、まっつん」
もうそのあだ名で呼ぶの、やめてくれ。ただでさえ頭に血が上っているのに、もっと苛々する。
柴崎と永井は、近くの駅で降ろすと楽しそうに人込みに消えていった。