嫌われ者に恋をしました

「嫌じゃなかったのかよ」

「……嫌でした」

「じゃあ、嫌って言った?」

「……いえ」

 隼人はハザードをつけると、路肩に車を寄せて停めた。ダメだとわかっているのに、頭が痺れて自分を抑えることができない。

「嫌なことは嫌って言わないと、伝わらないんだ」

 隼人はシートベルトを外すと雪菜をじっと見て、左手で助手席のシートを勢いよく掴んだ。雪菜は驚いて、肩をビクッとさせた。

「嫌って言わないと、男はいいと思っていると勘違いするぞ」

 隼人は、今度は右手を助手席の窓にバンッとあて、息がかかるような至近距離から雪菜を見下ろして囲い込んだ。

「今言っただろ。嫌なことは嫌だって言わないと、男は勘違いするんだ」

 雪菜は怯えた瞳をしていた。どうして俺はこんなことしてるんだろう。彼女を怖がらせて、嫌って言われたいのか。でも、自分を止められない。

「嫌じゃないのか?このままだと、いいと思ってると勘違いするぞ?」

 雪菜は身動きができず、怯えて息を殺しているようだった。

 こんなに怖がらせて、もうやめようと思った時、ふと視界に入った雪菜の震える唇があまりにも柔らかそうで、このまま奪いたいという衝動が隼人の体を走り抜けた。

 何やってんだ!

 窓をトンッと押して雪菜から離れると、隼人はシートに座りなおして前を向き、ため息をついてからシートベルトをした。
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