嫌われ者に恋をしました

「……ごめん」

「い、いえ」

 隼人はしばらく黙っていたが、今度は小さくため息をついて、車を発進させた。

「あの、……言うようにします」

「え?」

「嫌な時は、嫌って言うようにします」

「そうすべきだね」

 それをわかってもらえたのは良かったが、あんなに怖がらせる必要はなかった。言葉だけでも良かったのに。

 本当に何をやってるんだろう。また距離が遠退いた。後悔してももう遅い。隼人は何度目かわからないため息をまたついた。

「……そういえば、さっき小泉は何が言いたかったんだ?」

 気を紛らわせるために質問してみた。

「あの、さっきはありがとうございましたって言いたくて」

「何の件?」

「その、私、永井さんたちと飲みに行きたくなかったので。課長が直帰できないって言ってくださったから、助かりました」

 あの時の嬉しそうに見えたのは、気のせいじゃなかったんだ。

「そう。……それなら、良かった」

 この後、俺は彼女を誘うのか?誘うだけ誘ってみよう、とか思っていたが、永井たちとの飲み会を仕事があるからと勝手に断った上、「嫌なら嫌って言え」なんてあんなに怖がらせて、非常に誘いにくい展開だ。

 俺は本当にバカだ。駆け引きなんて全然できない。どうしてこうもおかしな展開になるんだろう。
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