嫌われ者に恋をしました
第2章
(1)瀬川
明日から会社は五日間の夏期休業に入る。休みの前に資料を整理しようと言われ、雪菜は資料室に隼人と一緒に来ていた。
この二カ月間でかなりたくさんの営業所に行ったから、資料も台車で運ぶほどの量になっていた。特に賀谷営業所のファイルはたくさんあって、保管箱を別にして整理した。
隼人が資料を取りに戻っている間、雪菜は資料室の中で資料を分類整理して、タイトルを付け、整理簿を作っていた。
資料室で一人になって、昨日のことを思い出した。昨日も課長を怒らせてしまった。いつも触られたことを言うと怒ってしまうような気がする。セクハラ嫌い?それとも……私が触られたから?
世間ではセクハラが問題視されているのかもしれないけれど、それでも正直言って男の人は結構触ってくる。胸はさすがにアウトだけど、肩や腕くらいはよくあることだ。
だから、触られるのは不快だけど、よくあることと割り切って今まで我慢していた。それなのに。
嫌なら嫌って言え、なんて……。嫌かどうか考えること自体を放棄していた。嫌って言ってもいいなんて、そう思うだけで開放的な気持ちになる。
課長は一度は怒ってしまったけど、その後はずっと優しかった。手を差し出されて、指を優しく包まれた瞬間、胸がキュウッと痛くなって息が止まった。甘く苦しい胸の痛み。
間違いなく私は恋をしていると思った。課長も私を見てくれているように思えた。