嫌われ者に恋をしました

 雪菜がふと顔を上げると、夕暮れの光が壁を朱色に染めていた。すごく綺麗と思ってぼーっと見ていたら、ガチャッと扉が開く音がした。課長が戻ってきた、と嬉しくなって顔を向けると、雪菜は一瞬で凍りついた。

 そこに立っていたのは瀬川だった。

 なんで、瀬川さんがここにいるんだろう。会いたくないし、話もしたくない。

「久しぶりだね、雪菜」

 もう雪菜なんて呼ばないでほしい。

「お久しぶりです」

「ずいぶん冷たいね。そんな仕事用の声じゃなくて、いつもの声で話してよ」

 雪菜は何も答えなかった。もう話すことなんてない。

「雪菜、松田に惚れた?あいつにもあんな顔を見せるなんて許せないな。雪菜は俺だけのものじゃなかったの?」

 そう言われてまた凍りついた。私の変化に気がつくなんて、本当に嫌になる。この人が私をよく知っているということを嫌でも思い知らされる。

「瀬川さんには関係のないことです」

「そんなことはないよ。君の気持ちが俺以外にいっていると思うと、居ても立ってもいられなくてさ。やっぱり、君が一番なんだ」

 何を今さら言っているんだろう。

「あいつより俺の方が君のことをよく知っている。誰よりも君を理解している。そんなこと、わかってるだろう?」
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