嫌われ者に恋をしました
私をよく知っているというのは確かにそう。でも……。
雪菜は瀬川の言い方が嫌いだった。どんな言い方をすれば雪菜が傷つき抵抗する気を失うかを瀬川はわかっている。雪菜はいつも何も言い返せないまま、最終的には無抵抗になってしまう。
出会った頃、瀬川は優しかった。今までこんなに優しい人に出会ったことがない、と思うくらい優しかった。
当時、営業課の仕事は確かに辛かったが、辛い思いをすることに慣れていた雪菜にとってはそれほど苦でもなかった。
それなのに、瀬川は二人きりになると必ず、「辛かっただろう?」とか「いつも頑張っているのは知っているよ」と優しい言葉をかけてきて、そんな言葉に免疫が全くなかった雪菜の壁はあっという間に崩れてしまった。
それでも最初は憧れるくらいだった。瀬川は結婚していて、子どももいる。こんな優しい旦那さんがいるなんて羨ましいな、と思うくらいの可愛らしいものだった。
でも、そんな幼い純真な想いは、一晩で一変してしまった。
瀬川が家まで送ってくれた日から。