好きからヤンデレ




「あら、こんにちわ。久しぶりね。」




重い足をゆっくりとエレベーターの外へ運ぶ。


真冬の日。


手袋とかマフラーとか着込んでもいいくらい寒いはずなのに、
なんでだろうか、そんなことも忘れて
エレベーターに乗り込んだ私は、おそらく会いたくもないはずだったのに
心の何処かで会おうと思ったのだろう。


なぜか会おうなんて考えたらよくよくわかることで

人間はよくできている。


人は知りたがりだ。

何でもかんでも知りたい。

今も
きっと聞いてみたかったから。

あの、今も時々思い出す、辛くて辛くて意味なんかを追い求めていた昔の出来事を。





「...こんにちわ。」


嘘笑いをしてみては彼女の眼を見つめる。

相変わらず美人で、最近ではあまりテレビでは見ないが芸能人としてのオーラかなんかを身にまとっている。


「今日はごめんなさいね。いきなり...。
あの日、空実ちゃんと会えなかったもんだから、曖昧でね。」


にっこりと笑いかける彼女だが、どこかしか悲しげだ。

それは『あの日』のことを思い出しているからなのだろうか

そして

『あの日』は、きっと

斗真たち家族があの街を出て行った日なのだろうか。


純白のロングコートにブルーの綺麗なワンピースを身にまとった彼女に


「すいません」


なんて、どうして謝ってしまっているのだろう。


『あの日』ことを教えてくれなかったのは彼女らだというのに。


「いいのよ。
そうそう...もう斗真にあった?最近また戻ってきてね。ふふ、これ、引越しの挨拶。って言ってもー」

空実ちゃんはここにすんでるから近所ではないけどねって

なんて、笑顔をちらつかせた。

それに答えるほどの私の脳は空いてはいない。



斗真が帰ってきた?



震える手で引越しの挨拶品とやらを受け取り、笑顔なんて見せるけど、流石にほおがこわばってうまく笑えないのは言うまでもない。



「じゃあ、斗真たちが車で待ってるから...」



「!?」



小さなバックから取り出した手袋を手にはめ、私に、また会いましょうとかなんとか言いながら手をちらつかせる。

そんな彼女を尻目に

私の手から引越し品の重たい箱が鈍い音を立てながら足元に落ちた。




斗真がすぐ近くにいる。




なんか分からなくて、箱を拾わないまま
歩く斗真のお母さんを追い越し、走り出すと


エントランスの扉を開けた。


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