好きからヤンデレ
空実said
意思がもうろうとして
足がただの棒になってわたしはその場にしゃがみ込んだ。
「空実...!?」
一人分の間を空けて前を歩いていた斗真が私のそばに駆け寄った。
鼻に付く鉄の匂い
「ぁ...だ、大丈夫。」
彼の片手には血がついたナイフ。
それが、決して嘘ではない今を突きつけられる。
「さぁ、立って?」
にこりとわらった彼に、
恋の泥沼に酔いそうになりながら、
反射的に彼の方をつかもうとする手を
どうにかして止めた。
「ち..がう。斗真じゃない。」
ポツリと呟く言葉は、しっかりと
斗真に投げかけるのだが
彼は斗真でないと信じたい。
どうしたの?俺は斗真だよ?
って、彼はずっと繰り返しながら
私を背中におぶった。
ここまできた証拠に汗と血の匂いが混じる。
でも、やはり懐かしいのは変わらない。
「空実。どこ行こうか。あいつらに見つからない場所で名前なんか変えて生活しちゃう?」
顔は見えないけど少し長い彼の髪が揺れる度に、ぞくぞくと心が騒いだ。
怖い
と思った。
だけど、なのに...
好きだ
と思った。
心地よく揺れる彼の背中は大きくて暖かくて
私は何かを忘れているような気がした。
「.......斗真は、どうして。私を...」
斗真と口にするのは久しぶりで、
胸が高鳴った。
ドクンドクンと
きっと好きの合図。
「空実をさらいたくなった。欲しくなった。」
そう淡々と話す彼に私はなんと答えたらいいのかわからない。
やめて。
とても、くるしい。
好き。
だ。
愛おしい。
うかつにも、もう、口元が緩んで
にやけてしまう。
「ぁ....う。」
うふ。
何かおかしいと、自分でもスイッチが切り替わる意図がした。
ダメ。ダメ。やめなきゃ。
止め......れない。
「どうしたの?空実?大丈夫?」
もう一人の自分と葛藤しながら震える私に
気付いた彼。
それが仇となって
「ぁ...な、なんでも...」
好きがあふれた。
う、
うふふふふふふふふ。
ダメだな。
好き。斗真が。
血の臭いなんて、刑事を切りつける斗真なんて
もうこれっぽっちも
怖くなかった。
今は、斗真の欠点なんて
そんなのどうでもいい。
だって斗真が、私を選んでくれたもの。
うふ。
にやけてしょうがないよ。
罪な女だな私。