好きからヤンデレ
二人の交わらない方程式
智治said
真っ黒な道を車で行くごとに俺は何をしているんだと考えてしまう。
静かな車内で俺は今から彼に会いに行くことをすこし拒んでいる。
きられた首の傷がうずいた。
だが、もう失敗はできない。
もう、道はないんだ。
目的の場所につくと俺は車をおりた。
すこし開かれた門の隣には城田の文字。
ギィーと不気味な音をたてる門をゆっくり開ける
どこからか切ない虫の鳴き声。
月の光がかすかに俺を照らす。
石畳の道を歩けば大きなドアが顔をのぞかせた。
ぼうぼうと何かにやっと開放されたかのようにのびる草木。
なのにどうしてか緑ばかり広がってひとつも花は見えやしない。
希望の見えない俺みたいだな。
ドアを開けるとそこは黒すぎる闇が続いていた。
スマホを取り出し懐中電灯を使う。
何もかもこれがあって便利になった。
空実とのつながりもこれで...
ギシ
進む足に神経を張り巡らせる。
ひどく傷んでいる木の廊下は
今にもボロボロだ。
「...............っ」
ツンとした空気の中
1人の小さな男の子が廊下の隅でうずくまっている。
俺は進むことを辞めた。
これ以上近づいても彼の空気に入ることはできない。
「.......ぁ。」
こちらに気がついたその子は少し顔を動かして
小さなつぶやきを俺に放った。
悲しくて辛くて
助けてほしいと。
「....斗真くん?」
「.....ぁ。」
それでの俺は、この子に聞かなきゃならないんだ。
「...斗真くん斗真くん。」
「ぁ....う」
ゆっくりとその子と俺の距離は縮まる。
ピンと張られた細い糸を歩くように
慎重に、丁寧に。
「.....ちがっちがう...」
うずくまったまま、腕でほとんど隠れていたその子の顔は、スッと頭を上げたことによって綺麗に放たれた。
涙で濡れた顔に息を呑んだ。
綺麗だ。
懐中電灯の光が眩しくその子の瞳を輝かせる。
「斗真くん。近くに行ってもいいかな?」
多分、その瞳は色に例えると青だから。
「ちがう。俺は斗真じゃ......ない。」
「.....君は、君は斗真だ。」
「こないで...」
小さく呟く彼だけど俺は、足を止めない。
「斗真くん」
「ヤダ、こないで。」
俺の足元にはひどく怯えるその子がいる。
また、顔を腕の中に埋めれば小さく震えだした。
あの頃とは違う。
赤い色の瞳の彼とは、違うんだ。
だから手を伸ばす。
この子は助けてあげたい。
無駄にしてはいけないこの綺麗な瞳を。
「ちがうっちがう!!!!はなせっ!!俺はっ俺はっ!!!!」
その子は俺の手を払い落として大きく騒いだ。
涙が落ちて床にポタポタと落ちる。
俺の目にも涙が浮かんで
見てはいられない。
「君は斗真だっ!!!斗真だ!!」
違う違うと、まるで幼稚園児のようにだだをこねるその子を
ギュッと俺は抱きしめた。
一瞬のことでこの子は小さく固まったまま、涙だけ流している。
小さくこの子の頭をなでればサラサラな髪にツンと胸が苦しくなる。
どうしてこの子を、俺は追いかけなきゃいけないんだと。
こんなにも純粋なはずなのに。
「.....斗真くん。君は斗真だよ。」
小さくつぶやけば、それもちゃんと聞き入れて、震えて震えて、それでもそうなんだと戦う君なのに。
「じゃあ.....俺はだれだ。誰なんだ。」
「だから.....斗真だよ斗真だ。城田斗真。」
ギュッと君の頭を抱きしめれば、
君も俺の体を小さく抱きしめ返した。
どんな子であろうと
この子はきれいなんだ。
繊細なんだ。
まだ、あの時のままなんだ。
どうしてもどうしても
愛したい彼女を手放し、路上に迷った
ちっぽけな高校生のままなんだ。
「君は.....君はね。」
だから、答えられない。
あんな奴と君を一緒にしてはいけない。
「ふっ...うっ...う」
切なく泣くこの子を。
ギュッときつく抱きしめた。
どうしたらいい。
どうしたらいいのか。
何もアテがないのに。
俺はこの子を捕まえて
この子の大事な子も捕まえなければならない。
離れ離れにしなければならない。
「.....俺が守る。君のことは。俺が」
「あうぅうあぁああああ」
「大丈夫だ。大丈夫。なぁ?」
そうなんだ。
俺は刑事だ。
だけど........人間だ。
グシャりとコートの中で音がした。
その正体を手にすると
俺の涙でびっしりと書かれた文字は、
ふやけた。
こんなのなければいいのにな。
『逃亡者 容疑者 城田斗真
二重人格の疑い有』
こんなの、あまりにもかわいそうだ。
真っ黒な道を車で行くごとに俺は何をしているんだと考えてしまう。
静かな車内で俺は今から彼に会いに行くことをすこし拒んでいる。
きられた首の傷がうずいた。
だが、もう失敗はできない。
もう、道はないんだ。
目的の場所につくと俺は車をおりた。
すこし開かれた門の隣には城田の文字。
ギィーと不気味な音をたてる門をゆっくり開ける
どこからか切ない虫の鳴き声。
月の光がかすかに俺を照らす。
石畳の道を歩けば大きなドアが顔をのぞかせた。
ぼうぼうと何かにやっと開放されたかのようにのびる草木。
なのにどうしてか緑ばかり広がってひとつも花は見えやしない。
希望の見えない俺みたいだな。
ドアを開けるとそこは黒すぎる闇が続いていた。
スマホを取り出し懐中電灯を使う。
何もかもこれがあって便利になった。
空実とのつながりもこれで...
ギシ
進む足に神経を張り巡らせる。
ひどく傷んでいる木の廊下は
今にもボロボロだ。
「...............っ」
ツンとした空気の中
1人の小さな男の子が廊下の隅でうずくまっている。
俺は進むことを辞めた。
これ以上近づいても彼の空気に入ることはできない。
「.......ぁ。」
こちらに気がついたその子は少し顔を動かして
小さなつぶやきを俺に放った。
悲しくて辛くて
助けてほしいと。
「....斗真くん?」
「.....ぁ。」
それでの俺は、この子に聞かなきゃならないんだ。
「...斗真くん斗真くん。」
「ぁ....う」
ゆっくりとその子と俺の距離は縮まる。
ピンと張られた細い糸を歩くように
慎重に、丁寧に。
「.....ちがっちがう...」
うずくまったまま、腕でほとんど隠れていたその子の顔は、スッと頭を上げたことによって綺麗に放たれた。
涙で濡れた顔に息を呑んだ。
綺麗だ。
懐中電灯の光が眩しくその子の瞳を輝かせる。
「斗真くん。近くに行ってもいいかな?」
多分、その瞳は色に例えると青だから。
「ちがう。俺は斗真じゃ......ない。」
「.....君は、君は斗真だ。」
「こないで...」
小さく呟く彼だけど俺は、足を止めない。
「斗真くん」
「ヤダ、こないで。」
俺の足元にはひどく怯えるその子がいる。
また、顔を腕の中に埋めれば小さく震えだした。
あの頃とは違う。
赤い色の瞳の彼とは、違うんだ。
だから手を伸ばす。
この子は助けてあげたい。
無駄にしてはいけないこの綺麗な瞳を。
「ちがうっちがう!!!!はなせっ!!俺はっ俺はっ!!!!」
その子は俺の手を払い落として大きく騒いだ。
涙が落ちて床にポタポタと落ちる。
俺の目にも涙が浮かんで
見てはいられない。
「君は斗真だっ!!!斗真だ!!」
違う違うと、まるで幼稚園児のようにだだをこねるその子を
ギュッと俺は抱きしめた。
一瞬のことでこの子は小さく固まったまま、涙だけ流している。
小さくこの子の頭をなでればサラサラな髪にツンと胸が苦しくなる。
どうしてこの子を、俺は追いかけなきゃいけないんだと。
こんなにも純粋なはずなのに。
「.....斗真くん。君は斗真だよ。」
小さくつぶやけば、それもちゃんと聞き入れて、震えて震えて、それでもそうなんだと戦う君なのに。
「じゃあ.....俺はだれだ。誰なんだ。」
「だから.....斗真だよ斗真だ。城田斗真。」
ギュッと君の頭を抱きしめれば、
君も俺の体を小さく抱きしめ返した。
どんな子であろうと
この子はきれいなんだ。
繊細なんだ。
まだ、あの時のままなんだ。
どうしてもどうしても
愛したい彼女を手放し、路上に迷った
ちっぽけな高校生のままなんだ。
「君は.....君はね。」
だから、答えられない。
あんな奴と君を一緒にしてはいけない。
「ふっ...うっ...う」
切なく泣くこの子を。
ギュッときつく抱きしめた。
どうしたらいい。
どうしたらいいのか。
何もアテがないのに。
俺はこの子を捕まえて
この子の大事な子も捕まえなければならない。
離れ離れにしなければならない。
「.....俺が守る。君のことは。俺が」
「あうぅうあぁああああ」
「大丈夫だ。大丈夫。なぁ?」
そうなんだ。
俺は刑事だ。
だけど........人間だ。
グシャりとコートの中で音がした。
その正体を手にすると
俺の涙でびっしりと書かれた文字は、
ふやけた。
こんなのなければいいのにな。
『逃亡者 容疑者 城田斗真
二重人格の疑い有』
こんなの、あまりにもかわいそうだ。