好きからヤンデレ
大学


『斗真がっ斗真がっ!!!』

『いいよ、もう』

『いなくなっちゃったんだよ!!なんでそんなに普通でいられるの!』

『...普通じゃないよ』

『普通だよ!』


高校二年生の春休み。

みかからの電話で目が覚めた。


...知ってたんだ。
彼は、引っ越した。

何も言わず
別れもなにも。

『........みか、やめて』

『空実!!なんでっ!空実の恋はそんなっ!』

『...もう、きっていい?』

『空実!ちょっ!!!』

ぶちっ


正直うっとおしかった。
電話にまでかけてこなくても分かる。


彼がいなくなってみかは心配したんだ。

あの時のことも結局は言えなかった。
親友だったのに言えなかったんだから
言いたくなかったんだろう。

あ....手作りチョコ
すごくまずかったな。

苦くて喉に詰まるくらいパサパサで
まるで終止符を打たれたあとの恋みたいに、食べるのが辛かった。

なんでだろう、なんで、


なんで

なんで

あの時言ったの?

そうやって迷って迷って九年間もやって来た。
なのにどうして、


あんな雨の日にずぶ濡れで告っちゃったんだろう。


...彼がいなくなるから?


幼馴染だからか...。
テレパシーみたいなので分かるとか?
だから、今言わないといつ言うのとか
勝手に心が察しちゃった系?
何それ...すごく要らない。
要らない...
要らない要らない要らない。

要らないよ...


「違うよ...違うんだよ」

違う。
こんなの言い訳にしかすぎない。
告白して振られたことをなかったことにしたい言い訳にしかすぎないじゃん。


純粋に好きだったから。

好きすぎて好きで好きしか頭になくて好きでどうにかなっちゃいそうで好きで死んでしまいそうなほど、

好きだった。


幼馴染としてじゃなく
『斗真』を好きだった。


そう小学校一年の時
私は、あそこに引っ越してきた。

近所づきあいをよろしくお願いします。

なんて、お菓子の包みを持って回った。


『...そら、み?』

『そう、そらみっていうのよ。仲良くしてくださいな。』

お母さんが隣の家の子供に笑いかけていたのを思い出す。

『そらみです。よろしく』

ぎこちなく挨拶をして、お気に入りのかわいいピンクのワンピースを力強く握った。

恥ずかしかった。
頭がどうにかなりそうなほど熱くなった。

『ぼ、ぼく、とうま。とうまです!』

美少年。

目の前がふわついた。

『と、ぅま?』

『...うん!』

にっこり笑う彼の顔に私は引き込まれた。

少し茶色がかった瞳の色。
目はぱっちりでまつげも長くて目がかかるくらいまで伸ばされた前髪。
だけど、見てて不愉快になるような髪型じゃなくてサラサラのストレートで綺麗にまとまってて、

かっこいい。

息を飲んだ。

キラキラしている。彼の周りがキラキラ、輝いている。

『そらみちゃん...よろし...くね。』


恥ずかしいのか目が合うとそらされた。

だけど、また目があって
今度はにっこり


笑顔になった。


その愛らしい笑顔が、好きだった。

そらみちゃんから空実になっても
まんまるかわいい顔が段々男らしくなって目もキリッとし出して体もごつくなっても、
手も足も身長も
全部全部
大きくなって小さい頃の

『とうま』

から

『斗真』

あの『愛くるしい笑顔』は、
何一つ変わらなかったのに。


好きだった。

好きだ。今も今も今もっ
この時もっ!

こうやって彼のことを考えてしまう。


だけどもう、終わりにすると決めたんだ。


「...涙、あんたのためになんか
一生見せない。」


いつの間にか頬を伝っていた涙をぬぐう。

バイバイしよう。

そしてもう、合わない。

バイバイ斗真

好きだったよ。


こうして夏が訪れ
冬が訪れ
高校を卒業し
大学に入った。


みかとは、高校を卒業してから連絡を取っていない。


斗真のこともあって
いろいろ喧嘩しちゃってそれから
お互い進む道も変わった。

だけど、後悔はしていない。

今は明るい未来。



過去から今へ。
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