好きからヤンデレ


目をさますとそこは真っ白な空間





ピッピッピッと一定のテンポを保つあれは


私の心臓の音

私の生きている証。





「起きましたか。」





どこかしこから聞こえた声に
私は敏感に反応して

咄嗟にかけられていた真っ白な布団を頭からかぶった。






「だ、だれ?」


曇ったその言葉は、あなたに届いていますか?



それにしても

震える声を演じるのは
少し難しい。





「智治だよ。」



知ってる。



声でわかった。


だってあなたは私の彼氏だもの。





「は、じめまして...。わ、たしはだれですか。わ、わからない。」




まだ、捕まるわけにはいかないのよ。





「君は、空美。君は...斗真を知っているかい?」




少し寂しげな彼の言葉が
おかしく聞こえて、小さく笑いそうになった。




斗真?


そんなのとっくの昔に忘れているわ。





えぇ。

そう...忘れようとした。



今の私は智治が好きなの



だけど、


もう一人の自分は斗真が好き。


空想の世界で斗真とつながっている

あの時のまんまだって...

思い続けている私がいる。



純粋なあの頃の私は
純粋なまま裏で生き続けた。




諦めようと吹っ切れた時、
私の不安定な心は分散して




斗真を愛しすぎる凶悪な私と
何も変わらない大学生の自分が

出来上がってしまったの。






「斗真は...しらない.......私はだれ?」



「本当に何も...知らないんだね?」




一種の記憶障害でしょう。

少し声のかすれた老人の声が耳に入る
おそらく医者だ。






「俺...のことも何も思い出せないか?」




布団の下で
私は必死に笑うのをこらえた


あら、やだ。


智治ったら私にベタ惚れじゃないかって。




何が捜査のため?
ふざけないでよ


私が智治をこんなに好きなの

智治もこんなに私のことが



好きなのよ。






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