近未来少年少女
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学校から帰ると聞き慣れない言葉が飛んできた
『お帰りなさい』
いつもお母さんは出掛けてる時間で、お父さんが帰ってくる6時までは一人だった
お母さんの仕事は普通のパートだけになって9時〜15時までになった
俺が帰ってくるまで帰れるようにお願いしたとか……
それも今は素直に喜ぶ事ができない
心に詰まったお母さんとの溝はあまりにも深かった
お母さんが今まで通りだったら、いつもみたいに怒って“お父さんの所に行く”って言えるのに……
お母さんが必死で変わろうとするから………
いいお母さんになろうとするから、俺はいつまで経ってもその言葉が言えない
息が詰まる家で唯一楽しみな事、それは……
『どこに行くの?』
サッカーボールを片手に靴を履いている俺にお母さんが言った
今日は土曜日
俺の生活は変わったけど、週末にミノルの所に行く事だけは変わっていない
週末も俺との時間を作る為に仕事は休みになってるらしい
だけどそんな事言われても困る、俺には俺の時間があるんだから
玄関で靴を履き終えてドアを開けた
『友達と遊んでくる』
『友達って……誰と?どこで……?』
こんな会話、母と子なら普通だけど…俺にとっては初めての会話だった
『お母さんの知らない友達…夕方には帰ってくるよ』
相変わらず俺の態度は冷たかった
お母さんは俺をひき止めたかったのか、わざと会話を長引かせようとした
『そのボールどうしたの?』
“そのボール”それは、お父さんとの大事なサッカーボール
これを買ってもらったのだって随分前なのに……今気付いたのかよ
この時の俺は“お父さん”の存在が大きすぎて
お母さんの事なんて見えていなかった
だからこんなに皮肉な事が言えたんだと思う
『このボールは俺の宝物だよ。お父さんに買ってもらった物だから』