キスなんて贅沢はいらないから
開けっぱなしのドアの向こうからかすかに卵焼きの臭いがする。

私はさっさと制服を着て、一階へ降りた。

お兄ちゃんと顔を会わせる前に、洗面所へ行く。

寝起きはすでに見られているものの、本当の所はあまり見られたくない。

だから、顔を洗って、歯を磨いて、

ショートカットの髪の毛を綺麗にとかしてから、ダイニングへ向かう。

台所には、薄いベージュのエプロンを着けたお兄ちゃんが、

皿に焼いたパンをのせているところだった。

あのエプロンは、私が小6の頃、お兄ちゃんにつくってあげたもの。

あげた日からずっと、お兄ちゃんは料理するときにつけている。

だから、あのエプロンをつけて作業しているお兄ちゃんを見るたびに

なんだか嬉しくて、誇らしかった。

テーブルに朝食を並べるお兄ちゃんと目が合った。

「今日のお弁当は、卵焼きと唐揚げも入ってる。」

にやりとお兄ちゃんは笑った。

どちらも私の大好物だ。

「やった!ありがとう!」

嬉しくて、声が裏返りそうになった。






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