時雨.
戸を閉め、沖田が腰を下ろしたのを
確認した紅杏は着物を整えつつ座り、
沖田を見た。
「 そんなに畏まらなくても
別に僕は何もしないよ? 」
そう言う沖田の声は上ずっていた。
まるで弄るように。
「 畏るも何も... ところで。
何故わたくしをお呼びに? 」
「 君と話がしたかったんだ。
ただ其れだけだよ?
もしかして…何か期待したのかな?」
意地悪そうに言う沖田に
不信感を覚えた紅杏は
顔を歪めた。
「 いいえ、決してそのようなことは。
ですが京都から遥々ここまで
いらしたことに疑問を
抱いてしまいんて... お恥ずかしい 」
京都から江戸まで、
しかも選りに選って匁夜なんかに。
紅杏は 幼い頃の記憶を思い出した。
ー またどこかに連れていかれる ー
紅杏の身体が細かく震える。
それに気づいた沖田は
はっとし、それから微笑んだ。
「 大丈夫。僕は何もしないさ 」
紅杏には、その沖田の
声が 顔が 笑みが ー 全てが ー 。
どこか懐かしく 思えたのである。