漆黒のイカロス【短篇】
漆黒の翼に光が灯る。
無限の世界へと続くゲートを開けるためのコントロール室のガラス越しに、ヴィンスは愛する幼馴染が飛び立とうとするのをじっと見つめた。
幼い頃より二人を見ていたからこそ、ユーリを止められないことは分かっていた。
「俺じゃ、駄目なんだよな……」
愛していた。大切に……大切に想っていた。
だけど、二人の間に自分が入り込む余地など少しもないことも十分すぎるほど理解していた。
今となっては見送るしか出来ないことも……
――ピッ
スイッチを押す指先から味気ない電子音が鳴った。
開かれた扉から、飛び立つ黒い機体……イカロス。
広げられた黒い翼から青白い粒子の光の帯をひきながら飛び立つ姿は、神々しくもあり。
だが、寂しげにも見える。
自分の胸に広がる闇とよく似た色をした空へと消えゆく姿を、見つめるヴィンスの瞳からこぼれた一筋の涙に……
微かに残る粒子の光がチリリとはじけた。
【完】