幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜
「来月、式を挙げようと思ってる」
あまりに唐突なことだったために、目を大きくした麻子は顔を上げる。視界にあるのは、至って真面目で、真剣な目をした純一――。
「な……っ、そ、そんな急に……」
(プロポーズされたのが、数日前だっていうのに!)
戸惑いを隠せない麻子に、真正面から向き合う姿勢になり、純一が口を開く。
「籍はいつでもいい。でも、カタチとして。やろうと思ったんだ」
「で、でも」
「ああ。心配はいらない。二人だけでやる」
「……え?」
付き合う前から、麻子は純一のペースに乱される。
本心から嫌ということじゃないだけに、拒否する言葉も口から出ず……。「カタチとして」――さらには、「二人だけ」と言われれば、それこそ断る理由なんて存在しない。
「だ、だけど……なんで来月――」
「その先、仕事が落ち着かないんだ。それに、ちょうど都内のホテルに空きもあったようだし」
「と、都内でなんて、関係者にすぐ知られてしまうんじゃ?」
(籍を入れる予定も立ってないのに、ヘンに騒がれてしまったら)
不安の色を瞳に映しだし、麻子が純一に訴える。けれど、返ってきたのは楽観的な答え。
「スケジュール的に、海外は厳しいから。大丈夫だろ、きっと」
(「きっと」って……! それなりに業界では名前が知れてる人間のくせに!)
唖然として純一を見つめると、真っ直ぐな瞳に捕まった。
動けなくなった麻子の頬に触れ、そのまま耳の上の髪に差し込むように手を回す。後頭部に到達すると、じょじょに顔が近づいて……。
「――俺の横で、純白のドレスを着て欲しい」
吐息が掛かる距離で囁かれたのは、まるで二度目のプロポーズ。