幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜


「わぁ! かわいーっ」


半休を、半ば無理矢理にとった麻子は、その後ひとりの女性に電話をした。


「麻子ちゃん。このコ、産まれてどのくらいなのかしら?」
「正確にはわからないですけど……目は開いてるので2週間は経ってるのかな、と」
「2週間! 通りで小さいはずだわ!」
「それで……あの、不躾なお願いなのはわかってるんですけど……雪乃さんのところで、飼ってもらえたりするかな……? って」


オフィス近くの公園に呼び出したのは、城崎雪乃――いや、今はもう藤堂雪乃だ。

無事に婚約から結婚まで果たした雪乃とは、麻子の数少ない友人として付き合っている仲。
ふわりとした白と黒のツートーンワンピースの裾を手で抑えるように屈みこむ。綺麗に梳かされた髪を耳に掛けながら、麻子を見上げた。


「調べてみたら、大事を取って3週間くらいは、強い光や日光、音を避けて、静かに眠れるようにしておいたほうがいいみたいなんですよね……」
「……それが。最近越したマンションは、ペット禁止なの」
心底申し訳なさそうな顔をして「ごめんなさい」と謝ると、人差し指で、つんつんと優しく子犬を撫でる。
「純一さんのところはペット可じゃないのかしら?」
「……マンション自体は問題ないんですけど」

(問題あるのは、家主のほう)


「はぁ」と小さく溜め息を吐きながら、麻子も雪乃と子犬を囲むように足を折った。


< 6 / 30 >

この作品をシェア

pagetop