幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜


純一の元へ戻ると、表情ひとつ変えずに、純一が麻子にキーを無言で手渡した。


「あの……ありがとう、ございます」


ぽつりと礼を口にしながら、おずおずとカードキーを受け取った。


(マンションまで近くだから、お昼休みを返上すれば行って戻ってこれるはず)


キーを手に、腕時計をちらりと見ながら思っていると――。


「食事する時間くらいはやる。ただでさえ細いんだからちゃんと食べろ」
「!」


麻子は顔を赤くして、驚いた目を純一に向ける。
しかし、書類で顔を隠すようにしている純一の顔色は窺うことが出来ず。


「……はい。失礼します」


麻子が一礼して社長室から下がると、ぱさっと数枚の紙をデスクに滑らせて息をつく。


「……俺も弱いな、本当」


純一は、大きな手を額にあて、麻子がいなくなってやっと、緩んだ顔を曝け出した。

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