甘やかな香りと魅惑の蜜

復帰

その後、会社に戻る旨を冬槙さんに伝えると、彼は帰っていった。

再び、家の中に私一人になった。
家には、どこか甘くて爽やかな香りが少しだけ漂っていた。
その香りは、どこか安心できた。

その日私は、久しぶりに食事をして睡眠をとった。

………
『ピンポーン』
どこかでチャイムがなる音がした。
『ピンポーン』
再び、なった。
眠りから少しずつさめてきて、誰かが家に来たことに気がついた。

急いで、玄関を開けると友人の柏 朱音(あかね)が立っていた。

「おかえり。瑠璃」

優しく微笑みながらゆっくりと私を抱き寄せてくれた。

「ありがとう…朱音」

朱音は暖かくて、少しの間抱き合っていた。

「瑠璃、ご飯食べた？」

朱音は、体を放すと片手に持っていた袋を見せてきた。
中には、野菜やお肉など入っていた。

「まだ、朝ごはん食べてないや」

苦笑いの表情を浮かべると、朱音は笑っていった。

「材料持ってきたから、一緒に食べよ」

私は、嬉くて家の中に二人で入っていった。
朱音が作った朝食は美味しくて、久しぶりに食べることが楽しいと思えた。
朝食を食べ終わると、会社に久しぶりに出勤するための用意をし始めた。
痩せすぎてしまって、スーツが若干ブカブカだったので朱音に思いきり笑われた。

準備が終わって、マンションから出ると黒い車がとまっていた。

「おはよう。高梨くん」

そこには、冬槙さんがいた。

「お、おはようございます。冬槙さん」

二人で顔を見合わせながら、挨拶をする。
(なんでこんなところに居るんだろう…)

「君たちは、今から出勤か？」
と、冬槙さん
「はい」
と、朱音
「よかったら、乗っていくか？」
と、冬槙さん
「はい？」
と、私
(話の流れがわからない…)

「高梨くんは、ほとんど今まで食べていないのだからキツいだろ。会社まで乗っていけと言っているんだが」

もう一度二人で顔を見合わせると、深々とお辞儀をした。

車に乗ってから、数分たって一つ気になっていたことを聞いた。

「あの、冬槙さんは…なんというか、あそこで待っていたんですか？」

すると、ミラーで私たちを見ながら答えてくれた。

「待とうと思っていたわけではなかったんだが、私の家が近いので出る時間が同じくらいだったんだろう。たまたま、二人を見かけたんで声をかけただけだ」

(そういうこと…)