誰も知らない物語


同日、山路を歩いていると、夢の中同様山賊が現れた。

彼らは師匠を囲み、襲いかかる。
一対多の戦いでも怯まず戦う師匠に惚れ惚れしながらも、僕は緊張を高めた。

ここで師匠に見惚れている彼女が、人質にされたのだ。

来る方向もタイミングもわかっている僕に、その企みを阻止できないはずがない。


ガサリ

彼女の頭上の木の枝から音がした。
そこには確かに山賊がいる。
二度、彼女を人質にとった男だ。

「上!」

僕が彼女に伝えると、彼女は驚いたように、でも即座に顔を上げた。

枝から降りてくる山賊。彼女はそれに応戦する。

正直右手しかない僕よりも彼女の方が体術は得意だったりする。


僕は山賊ともみ合いになっている彼女に近付き、山賊の背に刃を突き立てた。


他人の生命を奪うのは初めてだった。
だけど、恐怖も罪悪感も何もなかった。

師匠を死に追いやり、彼女を哀しませた元凶。

僕は憎しみと恨みに支配されていた。


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