誰も知らない物語
二巡目
「おっはよ!」
元気な声が聞こえる。
僕はゆっくり目を覚ました。
「おはよ……?」
目の前にいるのは元気に笑う彼女。
少し前の…彼が死ぬ前の彼女。
「どうしたの? 鳩が豆鉄砲喰らったような顔してるけど」
「いや…別に」
何とも言えない感じ。
夢を、見ていたのだろうか。
それにしてはやけにリアルだった気もする。
「…師匠は?」
「ご飯作ってくれてるよ」
「起きろクソガキ。さっさと飯食って行くぞ」
彼女の後ろから屈強な男性が出てきた。
何年も共に生活してきた彼は、僕と彼女の師匠だ。
「…師匠?」
「ああん?」
話しかければ返事をしてくれる。
当たり前のように動いている。
……彼女と共に笑っている。
そんなことが嬉しくて涙が零れた。