その姿、偽りなり。
彼女が疲れ果てて寝たあと、隣で診察していた芽衣ちゃんもすぐに寝た。


宏が俺たちを隔てていたカーテンを開ける

芽衣ちゃんの腕にも翼ちゃんと同じように点滴をされていた。



「宏、そっちどう?」


宏「見ての通り。喘鳴がずっと続いてる。そっちは?」


「こっちはずっと熱が下がらない。

そして、俺は拒否られてる。」


宏「普段、女子から人気のお前が嫌われてるとかプッ」


「お前ってたまーに酷いよな (-ω-;)」



「んっ」


「ごめん、起こしちゃったね」


芽衣「翼は、先生のこと嫌ってなんかないよ。」


「えっ?」


芽衣ちゃんの一言が無性に俺の胸に響いて気にならずにはいられなかった。



「どういうこと?」


芽衣「前にも言ったように翼は人前で苦しんでる顔を見せない。

今までだって発作を止めるのに薬や点滴を使ったことなんてなかったの。

それが今は及川先生の前で辛いことを認めた。素直に治療も受けた。

先生たちにとってはそれが普通なのかもしれないけど、いつもの翼を知ってる私から見たら、それってすごいことなんだよ?」


「でも、今日はたまたま苦痛に耐えられなかったのかもしれないし…

それに治療は受けてくれてもいまだに入院は拒んでる。」


芽衣「それは…翼には譲れないものがあるから。」


譲れないもの

彼女が自分の身体を犠牲にしてまで求めているもの


「譲れないものって…?」


芽衣「ごめん、これ以上は言えない。

直接、翼から聞いて」


芽衣ちゃんの表情は、彼女の思いを応援する一方でどこか不安に満ちていた。


宏「ほんとのこと言うとさ、俺は芽衣ちゃんに入院してほしい。」


芽衣「うん。」


宏「だけど、芽衣ちゃんは心配なんだよね?自分が入院してる間、他の友達と距離が出来ちゃうんじゃないかって。

翼ちゃんが離れていくんじゃないかって

それに翼ちゃんが無理をするかもしれないって」



すべて図星だったようで驚いた様子で宏を見つめた。


宏「だから、今回は許してあげる。

だけど、また大きな発作が起きたり

今より状態が悪くなるようなら、入院は避けられないからね。」


芽衣「うん!ありがと、宏先生」


これだから子供はすげぇーなと思う。

たとえ、辛い状況にあろうともたった1つの光を求めて、ひたすらに走ることが出来るのだから。

大人になっていつの間にか前を向くことを忘れて後ろを振り返りがちである。

遠く先を見据えて行動しがちである。

大切なのは今を生きてるこの時間なのに。




俺の譲れないものって何だろう?

多少レベルが高い医者という地位か

医者である前に俺としてのプライドか



もしそうだとしたら


なんてちっぽけな考えなんだろう




きっとこの考えは医者でないやつには分からない



でも、ちっぽけでいい。


それでもいいから理解されたいと思う。



彼女は?


彼女の譲れないもの

もしかしたらそれは他人には理解し難いことなのかもしれない。


それでも、彼女は俺と同じことを思うはずだ。


この気持ち、誰か分かって!
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