私雨。1
私雨。2
現場に向かう車の中で大志田は黙っていたが、
「現場までの時間は?」
「30分、とみてください」
それだけ聞くとまた黙ってしまった。
課長の島貫は、
「終わったら」、真っ先に「俺に連絡しろ」との事だった。
「3課に連絡は?」
「大丈夫だ」
「連絡はいってますよね」
「大丈夫だ。いいから早く行け」
(大丈夫なもんか!)
大志田は腹の中で舌打ちした。
もし本当に物証が出たら、大事だった。
「ただでは済まない」
連絡をしてないことで、「上」から何か言われたら、先走った責任を取らされる恐れがあった。
(俺はいいが………)
寝屋川と片桐に累が及ぶのを心配した。
島貫が自分達を何処までカバーしてくれるか怪しいものだった。
鑑識の寝屋川からも連絡はあったが、現場は、
「片桐班長も了解してくれた。
死体があるわけじゃあないから急ぐ必要はない。
……と言っても、ここにないだけで病院に行けば会えるがな。生きていれば………だが。
それと、タヌキ(島貫課長)のことだが、3課の課長に連絡は行ってないかもしれん。早くしてくれ」
寝屋川も大志田と同じ心配をしていた。
「、手掛かり、は生きているのか?………あぁ、いや、分かった。だけど、何故、3課の事件で03号事件に結び付いた?それだけ教えてくれ」
「この宿泊所に片桐班長達が窃盗団の中継所を見つけた。調べているうちに、ここのオーナーが………」
暫く顔を見ていない店子がいるから、部屋を開けるのに、立ち会ってくれないか。
そう頼まれた、と言うことだった。
「俺達も余程の事がなければ、立会いはしないんだが、窃盗団がいた宿泊所だからな。
他の部屋を見る、いい口実だったんだよ」
通常、宿泊所に犯罪組織の隠れ家が見つかったとしても、関係ない他の部屋まで見るのは簡単にはいかない。
本人の承諾と、それがなければ、令状が必要になる。
当然時間がかかる。
「部屋は6畳、中に男性の老人が倒れていたんだ。息は絶え絶えだったが、生きていたよ。
それで病院へ運んだんだ。
年齢、名前はオーナーから聞いたが、本当かどうかは怪しいな。
片桐班長の部下が一人付いてる。その男を運んだ後………改めてその部屋を見たんだよ………それで……」
すぐ部屋を出て、ドアと窓(が二つあり)を封鎖して、島貫課長に連絡した。
、と言うことだった。
「俺達鑑識は事件の要だ。俺達より先に現場を調べられる者はいない。だけど………今、あの事件を隅々迄知っているのは、お前だからな。情で言ってるんじゃあないぞ!お前なら何かを掴める………俺はそう信じてる」
寝屋川も03事件の概要は細部まで知っている。
大志田は寝屋川の計らいで03号事件の遺留品を見せて貰った事もある。
寝屋川の逸る気持ちが伝わってきた。
(欲のない男だ)
大志田は思う。
寝屋川が………である。
(もし………03号事件の新証拠を見つけたなら大手柄なのに)
それなのに「俺に」連絡して来てくれた。
階級は大志田の方が上だが、警察官としての経歴も歳も寝屋川の方が上だった。
大志田は階級抜きで、対等に付き合って来た。
片桐は私大出のノンキャリだが大志田と同じ警部。歳は片桐が二つ上だった。
片桐の方は……….
片桐は別な思いで、俺に連絡するのを了解した筈だった。
もし、03号事件に結び付いたら、自分の手を離れ1課に事件は引き継がれる。
この場合、片桐達は無視されるのは分かり切っていた。
(大志田なら心に留めてくれる」
だから、
(これは貸し、だからな)
暗黙の了解だった。
ただ、島貫課長が功を焦り、3課に連絡をしてなければ、一悶着はある。
それにしても………
(今頃になって03号事件の手掛かり?)
大志田は03号事件の事は、隅から隅まで調べていたが、遺留品から犯人に結び付く手掛かりは何も得てはいない。
唯一の物証の足跡も、結局犯人には結び付ける事は出来なかった。
動機さえ不明だった。親父と添島正臣を結び付ける、何物も出てはいない。
それに、
大志田が刑事になった頃には、二つの殺害現場は既になかった。
取り壊されていたからだ。
その現場に俺がいたら………
「何かを見つけたかもしれない」
その思いが強い。
外は………雨がまだ降っている。
「やみませんね。天気予報だと、もうすぐ上がるんですけどね」
「………………」
大垣は誰に言うともなく呟いたが、大志田の返事はない。
大垣は大志田と組んでから5年経つ。
大垣もノンキャリである。
大学を出た後、中途採用から警官時代を経て刑事になり大志田のチームに配属された。
大志田の遣り方は熟知していた。
こんな時にはどうすれば良いのかは分かっているつもりだった。
だが03号事件は大垣は殆ど知らない。
大志田の父親が犠牲になってるのは知ってはいたが、人から概要を聞いたに過ぎない。
「警部、03号事件の概要は知ってはいるんですが………教えて貰えませんか」
「大垣、俺を現場に送ったらお前は帰って寝ろ。課長が了承しているとはいえ、これは非公式の臨場だ。
お前迄付き合う必要はないからな」
「いや、行きます。僕も付き合わせて下さい。で………なければ警部のチームに入った意味がありませんから」
大志田は笑った。
「そう言うと思ったよ」
最初の事件は………
大志田が話し出した。
現場に向かう車の中で大志田は黙っていたが、
「現場までの時間は?」
「30分、とみてください」
それだけ聞くとまた黙ってしまった。
課長の島貫は、
「終わったら」、真っ先に「俺に連絡しろ」との事だった。
「3課に連絡は?」
「大丈夫だ」
「連絡はいってますよね」
「大丈夫だ。いいから早く行け」
(大丈夫なもんか!)
大志田は腹の中で舌打ちした。
もし本当に物証が出たら、大事だった。
「ただでは済まない」
連絡をしてないことで、「上」から何か言われたら、先走った責任を取らされる恐れがあった。
(俺はいいが………)
寝屋川と片桐に累が及ぶのを心配した。
島貫が自分達を何処までカバーしてくれるか怪しいものだった。
鑑識の寝屋川からも連絡はあったが、現場は、
「片桐班長も了解してくれた。
死体があるわけじゃあないから急ぐ必要はない。
……と言っても、ここにないだけで病院に行けば会えるがな。生きていれば………だが。
それと、タヌキ(島貫課長)のことだが、3課の課長に連絡は行ってないかもしれん。早くしてくれ」
寝屋川も大志田と同じ心配をしていた。
「、手掛かり、は生きているのか?………あぁ、いや、分かった。だけど、何故、3課の事件で03号事件に結び付いた?それだけ教えてくれ」
「この宿泊所に片桐班長達が窃盗団の中継所を見つけた。調べているうちに、ここのオーナーが………」
暫く顔を見ていない店子がいるから、部屋を開けるのに、立ち会ってくれないか。
そう頼まれた、と言うことだった。
「俺達も余程の事がなければ、立会いはしないんだが、窃盗団がいた宿泊所だからな。
他の部屋を見る、いい口実だったんだよ」
通常、宿泊所に犯罪組織の隠れ家が見つかったとしても、関係ない他の部屋まで見るのは簡単にはいかない。
本人の承諾と、それがなければ、令状が必要になる。
当然時間がかかる。
「部屋は6畳、中に男性の老人が倒れていたんだ。息は絶え絶えだったが、生きていたよ。
それで病院へ運んだんだ。
年齢、名前はオーナーから聞いたが、本当かどうかは怪しいな。
片桐班長の部下が一人付いてる。その男を運んだ後………改めてその部屋を見たんだよ………それで……」
すぐ部屋を出て、ドアと窓(が二つあり)を封鎖して、島貫課長に連絡した。
、と言うことだった。
「俺達鑑識は事件の要だ。俺達より先に現場を調べられる者はいない。だけど………今、あの事件を隅々迄知っているのは、お前だからな。情で言ってるんじゃあないぞ!お前なら何かを掴める………俺はそう信じてる」
寝屋川も03事件の概要は細部まで知っている。
大志田は寝屋川の計らいで03号事件の遺留品を見せて貰った事もある。
寝屋川の逸る気持ちが伝わってきた。
(欲のない男だ)
大志田は思う。
寝屋川が………である。
(もし………03号事件の新証拠を見つけたなら大手柄なのに)
それなのに「俺に」連絡して来てくれた。
階級は大志田の方が上だが、警察官としての経歴も歳も寝屋川の方が上だった。
大志田は階級抜きで、対等に付き合って来た。
片桐は私大出のノンキャリだが大志田と同じ警部。歳は片桐が二つ上だった。
片桐の方は……….
片桐は別な思いで、俺に連絡するのを了解した筈だった。
もし、03号事件に結び付いたら、自分の手を離れ1課に事件は引き継がれる。
この場合、片桐達は無視されるのは分かり切っていた。
(大志田なら心に留めてくれる」
だから、
(これは貸し、だからな)
暗黙の了解だった。
ただ、島貫課長が功を焦り、3課に連絡をしてなければ、一悶着はある。
それにしても………
(今頃になって03号事件の手掛かり?)
大志田は03号事件の事は、隅から隅まで調べていたが、遺留品から犯人に結び付く手掛かりは何も得てはいない。
唯一の物証の足跡も、結局犯人には結び付ける事は出来なかった。
動機さえ不明だった。親父と添島正臣を結び付ける、何物も出てはいない。
それに、
大志田が刑事になった頃には、二つの殺害現場は既になかった。
取り壊されていたからだ。
その現場に俺がいたら………
「何かを見つけたかもしれない」
その思いが強い。
外は………雨がまだ降っている。
「やみませんね。天気予報だと、もうすぐ上がるんですけどね」
「………………」
大垣は誰に言うともなく呟いたが、大志田の返事はない。
大垣は大志田と組んでから5年経つ。
大垣もノンキャリである。
大学を出た後、中途採用から警官時代を経て刑事になり大志田のチームに配属された。
大志田の遣り方は熟知していた。
こんな時にはどうすれば良いのかは分かっているつもりだった。
だが03号事件は大垣は殆ど知らない。
大志田の父親が犠牲になってるのは知ってはいたが、人から概要を聞いたに過ぎない。
「警部、03号事件の概要は知ってはいるんですが………教えて貰えませんか」
「大垣、俺を現場に送ったらお前は帰って寝ろ。課長が了承しているとはいえ、これは非公式の臨場だ。
お前迄付き合う必要はないからな」
「いや、行きます。僕も付き合わせて下さい。で………なければ警部のチームに入った意味がありませんから」
大志田は笑った。
「そう言うと思ったよ」
最初の事件は………
大志田が話し出した。