殺してあげる

そのうちに力尽きた『わたし』は、縛り付けられてだらりとした血まみれの腕だけを残して、浴槽の中に沈んで行った。


頭が少し見えている程度で、あとは全て赤い水の中に浸かっている。


どんなに揺すっても叩いてもだらりとした肉の塊を確認すると、ようやく加穂留はカメラを止めた。


傍らで小さく丸まってうなり声を上げているキクカワに冷たい視線を落とすと、自分の額に光る汗、そこにまとわりつく髪の毛を腕で拭いとった。


肩を上下にして呼吸を整えると何かことばを発した。


でも、ワタシにはなんて言ったのか、分からなかった。


声が薄れてきて、目の前が霞んできたから。



ただ、痛みも不快感も何も感じない。


においも感覚も、なんにもない。



目の前に両腕を伸ばしてみた。


真っ白く透き通っている。爪も長く延びている。



指を曲げようとしたけど、力が入らない。



眼下に目をむけた。







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