殺してあげる
あれから1か月後、隣の住人から、
『変なにおいがする。それに、虫も湧いているようだ』
という苦情により部屋の中に現れたキクカワは、マスクで口元を覆っていて、前髪は不自然に伸びていて、
表情は読み取れない。
しかし、
彼が来るのをわたしはここで待っていた。
わたしはここで、過去の自分が朽ち果てていくのを毎日眺めていた。
肉が骨からずれて音を立てて沈む。
体内に溜まったガスが腹の中で爆発し、その拍子に浴槽の中の湯が溢れて茶色く濁ったくさい液体が壁に撒き散った。
関節は外れ、骨がごとりと音を立てて沈む。
髪の毛だけが湯の上に浮かび、縛られていた手首はそこから真っ二つに腐り、浴槽の中に沈み落ちている。
でも、ソレはわたしじゃない。
だって、わたしは今、ソレの頭上にいて、ビニールの服を着て手袋をして、マスクをしているキクカワを見下ろしている。