殺してあげる
真っ黒い大きな犬。口だけが赤く浮かび上がり、口の端しからはトロッとしたよだれが垂れていた。
何頭もいるそれは、うなり声を絞りだしながら一歩一歩近づいてきて、目的は……
この車だ。つまりは私か。
全身に鳥肌が立ち、咄嗟に運転手が入っていったドアの方に目を向けた。
ドアの前にも黒い犬が二頭、地面の臭いを嗅ぐようにうろうろしていた。
辺りを注意深く見回すと、そこら辺に骨のような黄ばんだものが転がっていて、長い髪の毛のようなものも散乱していた。
息を飲んだ。
ここで出ていったら殺される。噛み殺される。
いや、もちろん早くこの世から離れたいけど、生きたままこの犬に食い殺されるのだけはごめんだ。
それだけは嫌だ。
「大丈夫ですよ。この犬は私が命令しない限り、襲うことはありません」
バックドアーか開いたと同時に声が降ってきた。
女の声だ。