殺してあげる
「アイコサマ」
「………加穂留?」
「アイコサマは『破』です。この犬たちは証拠処理のためのものですから、生きている人間に興味は持っていません」
「生きている? 証拠?」
何を言ってるの。
「ささ、中へどうぞ」
家の中へ入れってことか。しかし、加穂留の後ろには黒い犬がうなり声を上げてよだれを垂らしながらこっちをしっかりと見ている。
「この犬……」
「………私の命令しか聞きませんので。アイコサマも以外と……」
「よかった。犬に食い殺されるのだけは嫌なの。それ以外ならなんでもいい」
「………」
素足に響く地面の土の感触は冷たくて骨に響く。
小石が足の裏で転がって、少し痛い。
無言、無表情になった加穂留は、私が車から降りたのを確認すると手慣れた動作で雑に棺を車からおろした。というよりむしろ投げ捨てたとでも言おうか。
犬たちはひたすらに棺の臭いをかぎまわり、加穂留はドアを閉めて先へ歩き始めた。
「いっ………」
後を追うように小走りについていく途中で何かを踏んで足の裏にまた痛みが走る。
見ると赤い線が……
「切ってしまいましたか」
「加穂留」
「気を付けてください。犬たちは血の臭いを嗅ぎ付けると………食らい付いてきますから。それだけは私も止められないんです。さ、行きましょう………食い殺されたくなかったら」