殺してあげる
棺の臭いを嗅いでいた犬が私の足から落ちた血の臭いを嗅ぎ付け、キュンキュン鳴き始めたのは、私が家の中に入ってすぐのこと。
一心不乱に砂利を舐める犬を見て、足の指を内側に曲げてなるべく地面に皮膚がつかないようにした。
「アイコサマ、さ、こちらへ」
スリッパとか、そんなもん、ないんだ。
加穂留は靴をはいているが、私に何か履き物を貸してくれるとかそんなことは一切ない。
家の中も外とさほど変わらぬくらい砂っぽかった。
古びた家具にはほこりがたまり、壁にかかっているカレンダーは擦りきれていていつのものかは分からない。
床も腐りかけているところがある。
「加穂留、なんかさ、履くものとか………ない?」
我慢できないほどに痛くなってきた。
この家の床にはガラスの破片も散らばっていて歩くのは辛い。
「……………失礼しました。それでは………」
あまり好意的とはいえない間が広がったけど、そこは考えないことにして、手渡された茶色く変色した古いスリッパを履いた。