殺してあげる

前を歩く加穂留の後頭部を眺めていると、なぜだか懐かしい気持ちになった。

そういえば運転していた男はどこへ行ったんだろう。見当たらない。

家の中はすべてが茶色。黄土色といったほうが近いか。
土埃がたち、家具そのものは何年も使われていないように、家と一体化していた。
茶色く汚れた窓から外を見たら、犬が棺の蓋を開けて中に入っていく様子が見える。
何頭かはいまだに地面を舐め続けていた。


しばらく歩くと広間に出て、真ん中に置いてある汚いソファーに加穂留はふわりと座った。
白い砂埃と綿ゴミが宙に舞い、静かに加穂留の頭上に舞い降りた。


「アイコサマ、さ、こちらへ」


ここに座れってこと?

まあ、いいか。

言われるとおりに腰を下ろすと同じように埃が舞った。


カチャカチャと音が鳴り響き、紅茶のいい香りがどこからともなくしてきた。
こんな汚い家には不釣り合いな上品な香り。

自然と心が温かくなる気持ちになった。



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