殺してあげる

「このようなものしかなくて、すみません。
置いたらとっとと下がりなさい、キクカワ」


黒ずくめの男はさきほどの運転手だ。
キクカワっていうんだ。
メガネも黒、来ているものもすべて黒。まるで喪服のようだ。


喪服……


「ささ、アイコサマ、どうぞ。本当はお茶菓子も用意しておけと言ったんですが、
忘れてしまったようで。すみません。ほんとにあれは使えなくて」
「………」

どういう関係なんだか興味はないけど、あの男は悪い気はしない。
もう少し話してみたい。
あの男は一体なんなんだろう。なんでここにいるんだろう。

加穂留と一緒にいるってことは、もしかして……
いや、そんなことどうでもいいか。
とにかく、私は早くこの世から消え去りたい。
そのために来たんだから。
こんなのんびりと紅茶なんて飲んでる場合じゃない。
死んだら味なんて分からないんだから、こんなものは生きているうちのまやかし物でしかない。


「アイコサマ、そんなに焦らないでください。ちゃんと準備は整っていますから」
「加穂留」
「アイコサマの考えていることくらい、加穂留ちゃあんと分かってますよぉ」
「……そうか、それならいいんんだけど」


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