殺してあげる

「それでは、アイコサマ、


ーーーーーーお逃げください」


「は?」


「犬に食い殺されるのがお嫌でしたら、ここから逃げてください。もちろん、ここにいて頂いても構いません。うちの中のほうが安全ですから」

「犬に……犬に食い殺されるの?」

「いいえ。本当はそうじゃないんんですが、キクカワがまた間違えてしまいまして」

「またって」

「ああ、この前にも、アイコサマの前にも失敗してるんですよ。あいつはいつも失敗ばかりする。なにもできない奴。思い込みばかりが激しくて、誰にも相手にされてない。今回は、アイコサマが逝ってから犬に食わせる予定でしたが、ほら、あのざま」

「そんな」


嫌だ。


死ぬのはいい。嫌じゃない。でも、犬ごときに食い殺されるのはごめんだ。


もっとこう、穏やかに、眠るように逝きたい。そうしなきゃ意味がない。





「アイコサマ。

きっとアイコサマは静かに痛みを感じずに眠るように逝きたいって思っていらっしゃいますよね。


でも……シニカタを選べるのは……



最後の最期まで頑張って生きた人だけなんですよ。


人の道をそれずに、人を陥れずに、真っ直ぐ前を向いて、


正しい道を歩んだ者のみに与えられるんです」





< 143 / 204 >

この作品をシェア

pagetop