殺してあげる
目をぎゅっとつぶって覚悟を決めたとき、加穂留がキクカワを呼び止めた。
そのことばにキクカワは黙って従い、加穂留の元へ戻り、加穂留の腕から流れる血を拭き取り、ポケットから包帯を出して、素早く巻いた。
私と加穂留は睨み合ったまま。
いや、睨んでいるのはむしろ私。
加穂留は……
加穂留は、冷たい目で私を見下ろし、笑っていた。
身震いをひとつすると、玄関のドアを爪でがりがり引っ掻き、体当たりしている犬に気付く。
やばい、早く、早く逃げなきゃ。
加穂留を囮にする計画は一瞬で崩れ去ってしまった。キクカワが近くにいるかぎり、加穂留には傷をつけられない。
私に残された道は、ここから逃げ出すことしかない。
くっそ、こうなるなら車から降りなければよかった。
車。
そうか、車に乗り込んでしまえばいいんだ。確か鍵はつけっぱなしだった。
棺だって外に出されているからあの車の中には誰もいない。
あの車までたどり着ければ、私……助かる。