殺してあげる

勢いよく立ち上がり、手近にあったものや本を加穂留とキクカワに投げ付けて、細長い金属のスタンドを掴み取り、ぶんぶん回しながら家の中のもを壊した。

玄関に向かうと奇声を発し、玄関のすぐ外でうろうろしている犬を威嚇。

玄関を蹴り破って外に出ると、まず近くにいた犬めがけてスタンドを振り回した。

間一髪で避けた犬は遠くに走って逃げ、数頭それに従って森の中へ消えていった。

残る何頭かは距離を保ち、低いうなり声をあげて足を踏み鳴らしている。


迷わずスタンドを振り回しながら車の方へ一歩一歩近づき、犬が四方から襲ってこないかをじっくりと確認した。





「あなたが一番最悪でした」




後ろの方で声がして、加穂留が外に出てきたのが分かった。

でも、私を捕まえるよりも、私が車に乗り込むほうが早い。




「加穂留にけがをさせた人、アイコサマが初めて。それに、キクカワが私の命令無しに自分で行動に出たのも、これが初めて。私、久しぶりに怒りの感情が湧いてきました」




言ってろバカ。



私だって本当に天上の世界に逝きたいんだ。
でも、犬に食い殺されたら意味がない。
五体揃って死なないと、まったく意味がない。
本に書いてあった。
生まれ落ちたそのままの状態で、汚れなく、処女、童貞であり、かつ、接吻の疑の皆無のもののみが召されることができる。
だから、何があっても、ここで食われて死ぬわけにはいかない。
こんなところでくだらない死に方なんてしたくない。
綺麗に、思いのままに死ねると思ったから来たのに。



こんなはずじゃなかった。



これじゃ、話と違う。
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