殺してあげる
足首から下は原形を留めていて、手の届かないところに転がっていた。
悲鳴とも雄叫びとも取れる奇声は私の喉から出ていて、それでも車に乗り込もうと這って車まで進む。
スタンドに当てられた犬は、びくびくしながらも近づいてきて、のろのろと口を開いて足首をくわえると素早く走り去った。
「くそっくそっくそっ」
殺したい。あの犬、戻ってきたら殺してやる。私の足……
「アイコサマ、なんて聞き分けの悪い」
「うるさいうるさいうるさい! こんなところで死ぬわけにはいかない!」
「……まだ分かってない。アイコサマが望んだことなのに。
私がアイコサマの命を掴んでいるといってもいいくらいなのに。感謝されてもいいくらいなのに」
「うるさい! 黙れ! お前に私の命をどうこうする資格はない」
「ひどい変わりようですね。あんなに望んでいたことなのに。それに加穂留、最終確認のメールを送ったのに」
「知るか!」
「やはりアイコサマもメッセージ、見ていないんですね」
「見たし! それも分かってる。不自然に変換された文字を組み立てればシニカタってやつが書いてあるんでしょ。
そんなことくらい、とっくに分かってた」
「………それならなぜここに」
「こうなるなんて思ってなかった。もっと安らかに、楽に逝けるものだとばかり思ってた」
「そんなわけないじゃないですか。
そんなに甘くないんですよ。
まあ、いいです。そんな話。分かっていてここへ来たのなら尚更ですね。
それに、頭に血が上りすぎてなぜ足が無くなったのかに気づいていらっしゃらないのですね」
なぜ足がなくなったか?
そんなこと……
はっと息を飲んだ。
痛くない。
私、足無いのに……痛みを感じない。