殺してあげる
しんと静まり返った車内に響くのは自分の呼吸音とドアに隔てられて小さくなった犬の吠える声。
エンジン音の心地よい震動は安心感をもたらすが、そこで重大な問題をみつけてしまった。
車なんて、運転できないし。
どうやったら車が動くのか、どれを操作すればいいの?
「ですからあ、その車、運転なんてできないでしょぉ? 諦めて、出たほうがいいですよぉ」
「くっ……バカ女が。誰が出るか! こんなところでお前らに関わっているほど私は暇じゃないんだよ。って、え……」
「またまたあ、別にやることなんてないくせに」
「聞こえてるの?」
「だって、私の車だもん」
なんで!?
声、聞こえてるの?
何かしかけられてる?
そういえば棺の中に入っていた時もキクカワに声が伝わっていた。
でもなんで、高校生の加穂留が車なんて持ってんの?
……キクカワのものってこと?
「アイコサマあ、でてきてくださいよぉ」
誰が出るか!
「じゃないと加穂留ぅ……」
一か八かだ。
見よう見まね、記憶に残ってるのを頼りにブレーキペダルを踏み、ギアをDに入れた。