殺してあげる

ブオンとうなり声を上げた車は走らない。

なんで!

なんで動かないの?

もう一度アクセルペダルを踏んだら更に大きな音をたてて唸った。


前に聞いたことがある。

思い出して、昔の車ってどうやったら動くの!



なにか、なにかするはず。

サイドブレーキ。

そうだ、サイドブレーキをなんとかしなきゃいけない。




ダメだ、目がかすむ。



痛みを感じないから分からなかったけど、足からはおびただしい量の血液が流れ出てる。



「ほら、アイコサマ、早く逃げないと」



逃げないと……





滑らかに動き出す車。

なんだ、けっこう私……できる。

ハンドルを持っている手に力が入らない。

でも、ハンドルは勝手に動いていて……

左足だけでペダルを踏んでいるから体が安定しない。

でも、車は前に進んでいて、遠ざかる加穂留の声、光、音……


これでやっとここから逃げ出せる。

このまま眠るように死ねたら……



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