殺してあげる
「いいよ」
加穂留の命令に犬は立ち上がり小走りに私の方へ来る。
「っ……ざけんなこのバカ犬! 来るな! 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな!」
一瞬怯んだ犬だが、私がここから動けないことが分かると、のんびりと腕のところまできて、臭いを嗅ぎ、血の流れ出てているところを音をたてて舐め始めた。
頭の中の何かがブチンと音をたてて切れた。
張り付けられた体を激しく揺さぶり、音をたてて壁に背中をぶつけた。
何回も。
何回も。
何回も。
許せない。
こいつらみんな、許せない。
鏡の中の私は鬼のような形相で犬を睨む。
笑っている加穂留とキクカワを涙を流しながら睨む。
どうにもできない状況を怨む。
右腕と左足に取り付けられている爆弾が憎らしい。
どうせこの二つも爆破させられるか、キクカワの銃で頭を撃ち抜かれるかのどちらかだ。
痛さを感じない自分にも腹が立つ。
痛さを感じることができたらきっと、失神してもう意識はないだろう。
でも、今の私は冷静すぎる。
死ぬ瞬間をこうやって、自分で分かりながら死ぬんだ。
望んだこととはいえ、こうなるなんて思わなかった。